書評:桐野夏生『柔らかな頬(上)』

- 柔らかな頬〈上〉 (文春文庫)
- 桐野 夏生
- 文藝春秋 2004-12
- おすすめ平均

アンフェアだが腹は立たない稀有な異色作
面白い。
マルチ解答という新しいカタチ
煉獄を俯瞰する神の目
これは面白い!桐野氏の傑作のひとつだと思う。
by G-Tools , 2008/06/01
失踪した娘を探す母親の物語。冒頭は面白くなかったけれど、北海道の、浮気相手の別荘で娘が失踪してからは、あり得ないほど面白くなった。4年も行方が見つからず、誰もが諦めているのに、母親だけ、娘は見つかると信じている。毎月娘が失踪した11日に、みんなに娘を見かけませんでしたか?と聞いて回る、電話して聞く。毎年8月11日には北海道に行って、娘がいないか探して回る。母親の熱狂的な様子に、周囲がひいている様子の描写が実に面白かった。
何か一つのことに取り憑かれたように執着して、社会の一般的マナーから脱落していく。母の「執念」は、『源氏物語』の六条の御息所を思い出したし、『嵐が丘』のキャサリンを思い出したし、フォークナーの小説に出てくる登場人物を思い出した。『柔らかな頬』はそれらの小説に連なる小説だし、桐野夏生の小説には、ものすごいこだわりを持っている故に、社会から脱落していく人がよく出てくる。
小説家は、社会のモラルに沿って小説を書く必要はないとよく言われる。アンモラルなマンガなり映画なりゲームが、青少年の教育に与える悪影響なんて最近よく言われるけれど、それでもフィクションは、社会のモラルに沿って書く必要などない。ある特定の執念がある故に、社会のモラルから脱落していく人を描くこと。社会のモラルと呼ばれているものが持っている弊害を的確に描写することが、小説家のモラルになる。
『柔らかな頬』のような小説が多くの人に読まれているということは、社会のモラルに従って生きている読者の心の奥底に、モラルにはおさまりきらないものが潜んでいるからではないか。それを掴んで小説にすることが、小説家のモラルではないか。
- [2008/06/01 12:40]
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