連載小説『虐待と監禁のイマージュ』は、昨日で最終回を迎えました。
今日から続編『無差別殺人と極刑のイマージュ』のスタートです。
カテゴリーは『小説テーマ:「虐待と監禁」』のまま、連載を続けていきます。
虐待と監禁を行った僕の前に繰り広げられる、無差別殺人と極刑のイマージュを鑑賞下さい。
『無差別殺人と極刑のイマージュ』
1
僕を乗せた自動車が停まったのは、拘留所前でなく、中央線の駅前だった。
「降りろ。お前の処刑場はここだ」
僕の体を隣に座っていた刑事が無理に引っ張った。
僕は自動車の外によろけながら出た。
朝、通勤の時間帯で、人通りが多い。
スーツ姿の男女、制服姿の高校生や中学生が早足で歩いている。
野暮ったい大学生らしき私服の若者も多い。
駅前のロータリーには、タクシーとバスが行き来していた。
以前毎日のように見ていた風景。
僕が降ろされたのは、大学時代を過ごした街だった。
手錠をはめて、体全体を赤いペンキと血で染めている僕の姿を見て、驚きの表情で僕を見つめる女子高生がいた。
僕は彼女の黒目をまっすぐ見つめて、両口の端をあげて笑ってやった。
僕を見つめていた女子高生は、顔を下げると、足早に改札の方へ歩いて行った。
僕は駅左のロータリーに降ろされてから、改札手前のベンチまで歩かされた。
ベンチ脇にはタクシー乗り場があり、二、三名タクシーの乗車待ちをしていた。
スーツ姿の男女が僕の格好を見て驚いた。
「すいません、すいません」
同行している若い刑事がしきりに頭を下げてあやまった。
タクシー乗り場から多い。
切符券売機の前でたむろしている学生たちが、僕の方を見て、しきりに気味悪がった。
タクシー乗り場から見える改札前は、出入りする人でごった返ししている。
「ここで一旦座れ」
僕は改札正面のベンチに座らされた。
ベンチ脇には、角型の赤い郵便ポストがあった。
大学時代、何度かこの郵便ポストに封筒を入れた記憶が甦ってきた。
座った途端、出血多量のせいか、意識が朦朧としてきた。
「傷口が痛む。応急処置をしてくれ」
僕は、僕の隣に座った年輩の刑事に頼みこんだ。
「無駄だ。お前に要求する権利はない」
「そんな馬鹿な話があるか。俺は人間だぞ。命くらい助けろ」
刑事は僕を見て嘲笑った。
「お前はまだ、自分が犯した罪の重さを自覚していないようだな」
「さっき、女子アナが、犯人は誘拐した女性をすでに二人殺していると言っていたな。人違いだ。僕は彼女しか知らない」
「無駄だ。喋るな。ばらばらにされた二人の遺体に残る指紋と、お前の部屋に残る指紋が一致した。この変態野郎が」
二人の刑事の後ろには、警察組織の者らしい黒い制服を着た男たちが、三人並んで控えていた。
全員、僕を見て意地汚い笑みを浮かべていたが、彼らは通勤で急いでいる人々に邪魔者扱いされていた。
「よし、準備しろ」
年長の刑事がそう言うと、制服を着た男たちが、金属性の鞄から鉄の鎖を取り出した。
「お前が受ける罰は決まった」
「何を言うか。取調べも裁判もなしに、誤認逮捕の被害者を罰するつもりか」
「戯言を繰り返すのはもうやめにしろ。お前の罪は俺が決めた。いや、俺が決めたのだが、俺が決める前に、全て決まっていた」
刑事が右の手のひらを太陽に向けて伸ばした。
制服姿の男たちが鎖を持って、僕の周りを取り囲んだ。
「お前を刑に処する」
刑事が言った。
制服の男たちが笑みを浮かべた。
若い刑事は周囲の様子を伺っていた。
通行人は僕らを奇異な目で見つめていたが、自分の事で忙しいのか、目をやるだけでみな素通りした。
「僕は判決も聞いていない」
「法廷の場で、お前の罪を審議する時間さえ、実にもったいないことだ。もう何を主張しても無駄だ」
刑事が掲げていた右手を下ろした。
制服姿の男たちが、ベンチに座っている僕の体をつかみあげた。